さようなら、160.4
私の身長は160.4cmである。
根拠は2017年・2018年・2019年4月の、大学での身体測定だ。(2020年は実施されなかった。)
3回連続で同じ数字だった。もう20代だから成長が止まったのは分かる。そしてまだ縮むような年でもない。しかし、だからといって、全く数字が変わらないのはそこそこ凄いことではないか?
自分の身長がおおよそ160.4cmだという認識を持った上で、「まあ160.1から160.7くらいまでは誤差としてあるかな」と私は思う。測定器の精度の問題だ。
実際、過去の全ての測定値の中で最も高かったのは160.7cmだ。これは受験期(2016年あたり?)に病院で出た数値である。
さて「160.4cm」と聞いて人はどんな印象を持つだろうか。
女性としては「ちょっと高い」くらいだと思う。
私の場合、日常生活で「背が高いね」と言われることはそんなに多くはない。けれど他の女性と並ぶと私が高い確率の方が高い。その程度だ。
なぜ身長の話をしているのか。
今日が2021年度の身体測定の日だからだ。
ここから身長の話をする上で、記憶にある限りの「私の身長にまつわる価値観」を詳らかにしたい。
生まれた時の体重はギリギリで「低出生体重児」に区分される程度だったそうだ。身長は知らないが、まあ小さかったのだろう。
しかし、幼稚園で早くも自分が「大きい方の人間」であるという意識を持った。身長順に並ぶと後ろの方だったからだ。一番後ろのずば抜けて高身長グループの、ちょっと手前くらい。これは春生まれであることも関係しているかもしれない。
小学校でも明らかに「大きい方の人間」だった。痩せていたからなおさらそう見えたのかもしれない。
中学校でも変わらずそうだった。しかし、少しずつ、後ろから真ん中あたりに近まっていた。おそらく中学卒業頃は158〜159cmくらいだったと思う。このあたりで「160cm」への憧れが強くなる。やはりなんとなく格好良いものである。そして、160cmであると宣言するならば、出来れば本当に160cmを超えたい。159cm台後半で160cmを名乗っていると、良心の呵責がありそうだから……と思っていた。
高校在学中に160cmに到達した。
しかしこの数値にはばらつきがあり、定期測定で超えたり超えなかったりだった。まあおおむね160cmなんじゃないかな、という感じだった。
そして、集団の中で見ると、かなり真ん中に近くなった。体育のグループ分け等で身長順に並ぶと、他のメンバー次第でごく稀に前半になったことがある。
ごく稀にというかたったの1回か2回だったが、それまでに形成された「私は背が高い」という固まった認識ゆえに衝撃は非常に大きかった。
しかし、衝撃ではあったが、私は「160cm」に誇りを持っていた。中学生の頃から「160cmにはなりたいな」と強く憧れていたので、十分だったのだ。自分の目標であり理想にはもう届いた。だから、私より数cm高い人に自慢されようと特に堪えなかった。
そして、高校を卒業してから、安定して160超えの数値を出せるようになった。
現在、私は身長を尋ねられれば常に「160cmです」と答えている。正確性を求められる場合でも問題ない。「160.4cmです」と答える。3回も連続で出た数字なのだ。ここに迷いはない。
そう。「身長を答える時に迷わなくて良い」。これは私が160.4cmに愛着を持つ理由の一つでもある。
さて、私は今日の測定を恐れている。
恐れているのは、160.4cmでなくなること。
その中でも160.4cmを下回るのは非常に嫌である。まあ160.0を切ることはないだろうけれど、160.1〜160.3も十分嫌だ。なぜなら身長を聞かれてどう答えて良いか分からなくなるから。ざっくりでいいなら今までと同じく160cmと答えるけれど、小数点以下まで求められたらどうすればいい?過去の三回の積み重ねと、最新、どちらがより実態を表している?
さらに実際のところ、160.4cmを超えるのも嫌なのだ。下回る場合と同じく、正確にどう答えていいか分からないという点もある。
160.5cm以上には新たな問題も生まれる。
「ざっくり答える場合、160cmか161cmか」という問題だ。
あなたが身長160.5cmだった場合、整数で答えるならば、どうする?
私は160cmに誇りを持っている。しかし、正確性を求めるならどうだ?四捨五入すれば161cmだからそちらの方が適しているのではないか?
「それは160cmでいいんじゃないの?過去に160.4cmを三回も記録したんだから」と答える人もいれば、「四捨五入が一般的だし、161cmと言うべきじゃない?それに高い方がかっこいいでしょ」と言う人もいるだろう。
そうやって意見が割れる時点で、嫌なのだ。
迷いたくない。
ざっくりなら「160cm」。
正確になら「160.4cm」。
どちらにも自信を持てるこの身長こそが、私が愛する数値だ。
私は1時間半後には身長を測り終えている。
実際には身長が減りも増えもしていないという前提で、また160.4cmという数字を出せる確率は決して高くないだろう。
さようなら、160.4cm。
また160.4cmに出会うためのおまじないとして、この言葉を残して行く。